平成22年度 富士宮中小企業大学 第六講
平成22年度 富士宮市中小企業大学 第六講
開講日 11月9日
講師 静岡大学理事・副学長 碓氷泰市氏
講義 「医学」 ―伝染病の脅威―
始めに先生は「伝染病」は近年「感染症」と呼んでいますと。人類の歴史は感染症との闘いといえる。抗生物質の発見・ワクチンによる予防で、感染症に勝利してきたと思ったが、制圧できたのは「天然痘」のみ。産業の発展による自然環境の破壊が、新たな病原菌を発生させ、交通手段の発達により世界大流行を起こす。現代は感染症との闘いの新局面を迎えている。感染症とは、病原体が人体に侵入し、増殖して発病する病気と定義される。おもな感染症に「細菌(バクテリア)性疾患」「ウイルス性疾患」「分子(プリオン)性疾患」がある。
細菌とは一個の細胞からなり、DNA・RNAを持ち自己増殖能力を持ち、乳酸菌や酢酸菌などの有用細菌と、人に棲みつく梅毒・ピロリ菌や0-157などの食中毒菌に代表される病原細菌がある。歴史的には中世ヨーロッパで流行したペストは、1346年~1351年ヨーロッパ全人口の1/3の3000万人が犠牲となった。皮膚が黒っぽい色になるため黒死病と呼ばれ、感染経路はクマネズミからノミを媒体して人に感染した。当時、都市の上下水道の整備がなく、生ゴミ・排泄物は街路へ廃棄され、運河に垂れ流し、入浴の習慣もなく劣悪な生活環境であった。
黒死病の影響でイギリス・フランスの百年戦争が休戦し、人口が回復するのに2世紀を要した。結核は産業革命期(18~19世紀)にロンドンを中心に都市部で肺結核の大流行が起こった。劣悪な労働条件と栄養不良が高死亡率をまねいた。日本においても明治以降、急速な殖産興業による工業化でイギリスと同じ軌跡を辿った。現在は予防措置(ツベルクリン反応・BCG接種)で死亡率は急速に減少しているが現在でも世界で20億人が感染し、感染者の死亡数第一位となっている。
ウイルスは単独で代謝・増殖できず、他の生物に寄生し増殖する。インフルエンザウイルスのA・B・C型のタイプのうちA型は人・鳥・豚・馬など幅広く感染する。人獣共通感染症であるインフルエンザウイルスは、数十年に一回の周期で、免疫が全くない「新型インフルエンザウイルス」が出現し、パンデミック(世界的大流行)を引き起こす。1918年のスペイン風邪は伝播力と病原性が強かったため、世界の約半数が罹患し、約5000万人が死亡した。
1997年香港で発生した高病原性鳥インフルエンザは致死率60%に及ぶ。ウイルスは寄生する生物に自ら近づくことはできないので、宿主たる動物に人が接近しなければ感染しない。エイズは1980年代初めに突如大都会に出現し、瞬く間に世界に広がった。原因であるHIVウイルスは本来宿主であるチンパンジーの近縁ウイルスから人に伝播した。自覚症状のない「無症候キャリア」が6ヶ月~10年でエイズを発症する。免疫機能が働かなくなり、様々な感染症や悪性腫瘍を発症する。2003年には感染者4000万人、年間死亡者350万人。
分子(プリオン)性疾患には狂牛病(BSE)があるが、1986年イギリスで発見された。異常型タンパク質で牛の脳が海綿化して死に至る。原因として、牛の成長を早めるために、ヤギの骨粉を飼料に混ぜて牛に与えた為とみられる。人のクロイツヘルト・ヤコブ病に似ている。
感染症の予防としては、宿主である動物に接近しないことはもちろんのこと、自らの防衛機能を高める。免疫力をワクチン予防接種によって人工的に体内に作り出す。うがい・手洗いはもちろんのこと、アルコール消毒はウイルスに効果がある。治療には抗生物質の投与、ペニシリンやストレプトマイシンの発見によって、人類の寿命は20年延びたといわれるが、抗生物質の選択毒性に対し、耐性菌が出現するなど、感染症との闘いは果てしない。インフルエンザに罹患したら外出を控え、自ら蔓延を防止することが肝要である。
講義終了後、早速卒業式が行われた。学長(市長)の代理として、副市長よりお祝いの言葉が述べられ、卒業生(全六講受講)25名、一人一人に卒業証書が授与された。
報告:河原崎信幸 (シンコーラミ工業株式会社 取締役会長)