富士宮市中小企業大学 第四講 震災後日本の課題
日時 平成23年10月21日(金) 19時
講師 静岡大学名誉教授 山本義彦氏
講義 震災後日本の課題(経済学)
先生は冒頭に、カタルーニャ国際賞受賞での村上春樹のスピーチ(「広島・長崎の被爆体験をした日本は核に頼らない世界の実現に全エネルギーをかけるべきだった」)に触れ、いち早く脱原発を表明したドイツとの比較を考察する必要を述べられた。
先生は、広島・長崎より、平和時におきた第五福竜丸の被爆に大きな影響を受け、経済学者でありながら核問題に大きく関わってこられた。
「核に頼らない」とは、「核の平和的利用」の名の下での核保有能力を維持することになる、核依存の電源開発を否定することである。国際的には核はあくまでも核である。「原子力発電」ではなく「核発電」と呼ぶべきかもしれない。
近年GDPの伸びと共に、エネルギー消費は伸びているが、そのなかで、民生・運輸部門での伸びが顕著である。産業部門では、エネルギー消費の伸びはないが、産業構造の変化や石油の安定的調達への不安から、電力への依存が高まってきた。日本のエネルギー自給率は4%しかなく、自給率を高めるために、一度輸入すると数年使うことができるウランを燃料とする、原子力発電をを準国産エネルギーとしてとらえ、原子力発電所を増設した。
その結果、日本は原発大国となった。政府はコスト・効率において火力発電より優れていると言い続けてきたが、効率においては、事故の発生が多く、設備利用率は国際的にも低い。コストにおいても事故対応・中間処理・最終処理・設置建設費等を加えると、火力発電より優れているとはいい難い。
全国規模で過去の最大使用電力を調べてみると、火力・水力発電の発電能力を超えたことはない。原発なしでも停電しないというデータはあるが、原発の発電比率は各電力会社で差があり、最高は関西電力の48%、最低は沖縄電力の0%である。原発依存度の高い地域の是正は、広域での電力融通など、長期にわたった設備投資計画が必要であるが、今後は大容量供給型の原発を基幹とする電力会社から、エネルギーの節約効果も期待される、地域生産型の分散的エネルギー供給体制への転換が重要である。
原発を誘致した地域には、種々の財政支援が行われ、補助金による最高水準の財政健全性が維持されてきた。外形的には一人当たりの所得は増加するが、地域に根付く産業の発展や、中小企業の振興策が見えなくなってしまう。原発という危険な特定産業に依存し、日常的にも放射線の高い地域となっていて、人々の健康障害が不安である。
アメリカでは核施設の周辺住民に、その危険性や放射線量の周知や、癌など放射線起因と思われる患者数の公表も行っている。日本においても今後、地域住民への情報公開が大切である。
福島原発の廃炉には40年以上の月日がかかるといわれている。また使用済み核燃料の処理方法はいまだ確立されていない。安全神話の中、便利さに慣らされていた私の無知を恥じる。