富士宮

平成24年度 富士宮市中小企業大学 第五講

日 時   平成24年10月23日

講義内容  ユーロ危機と日本経済:対岸の火事、それとも明日はわが身?

講 師   静岡大学 人文社会科学部 教授 安藤研一氏

 

ユーロは1999年ヨーロッパ11カ国で、銀行間取引に使われ、2002年に共通通貨としてユーロが発行された、現在17カ国が参加している。

ユーロ危機とは、財政赤字国のユーロ離脱や債務不履行、健全財政国の支援疲れによるユーロ離脱、二つの側面からのユーロ圏の分裂の可能性をさす。

ユーロ危機の始まりは、ギリシャの政権交代で旧政権の財政赤字隠しが告発され、それが他の財政赤字国に伝播し、金利上昇を招いたことによる。危機の直接的原因はPIIGS(ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペイン)といわれる五カ国の財政赤字の拡大だが、根本的にはユーロに経済的な合理性があったのかが問われている。

ノーベル経済学賞のマンデルは最適通貨圏の理論を発表している。その条件である経済の同質性・労働市場の柔軟性・労働力移動の高さ・財政の再分配機能において、ユーロは最適通貨圏であったのか?検証を重ねると否定せざるを得ない。ユーロ圏の財政赤字には国によって異なる要因があり、経常収支の不均衡もある。           

危機への短期的な対処として、IMFのヨーロッパ版による財政支援で与信機能の回復、金融面では欧州中央銀行の金利引下げや量的緩和による資金供給増、条件付の国債購入等、そして財政協定を結んで財政の均衡を図る、しかしこれにはモラルハザードが危惧される。

中長期的対策では、条約を改正してEUレベルで銀行への監督支援や国債をユーロ圏レベルで発行する等の対応が考えられる。また不均衡の是正の為には、ユーロ圏の各國において、財政協定を結ぶと同時に、成長・雇用協定を結ぶ等が考えられる。

しかし年金を67歳まで繰り下げて財政健全化を計ったドイツが、いまだ60歳支給し、税の徴収も不適切なギリシャをなぜ助けなければならないのかとの世論を考えると、いまだユーロ危機は続いていると言えよう。

日本経済への影響は、円高ユーロ安による対欧輸出低迷に留まらず、第三国市場での競争条件にも変化をもたらせている。そして欧州発世界金融経済危機も孕んでいる。

ユーロ危機を通して日本経済を検証すると、政府債務残高(赤字国債)の蓄積は対GDPで165%のギリシャを上回り200%を超えている。しかし恒常的経常収支は黒字であり、外貨準備高は10億ドルを超えている。

かように日本経済はギリシャ的側面とドイツ的側面を内包しているが、内需は停滞し、外需に頼る経済構造となっている。これを脱却するには規制・管理型社会から課題挑戦型社会への移行が必要である。EUにおいても日本においても雇用を支え、課題に挑戦できるのは中小企業である。私も大学で「答えのない問題を考える」ことを学生に教えている。「日本にとっても対岸の火事と思わず、直接的問題としてユーロ危機を捉え、日本自身の課題に取り組んで行きましょう」と締めくくった。

★報告:河原崎信幸(シンコーラミ工業株式会社)


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